近日、Euromonitor Internationalが発表した『2025年 世界の消費者トレンド』レポートによると、世界の消費市場は大きな構造変化を迎えている。この変化は単なる一時的な現象ではない。実際、越境ECやブランドの成長は、複数の新しい消費トレンドによって根本から再定義されつつある。
本稿では、消費者意識の変化、サステナビリティ、生成AIなど5つの主要な消費トレンドを中心に詳しく分析する。さらに、市場データと実際の事例を交えながら、これらの変化がどのように消費行動とブランド戦略を再構築しているかを紐解いていく。
1. 健康意識の高度化による消費トレンドの変化 ―「長生き」から「健康寿命」へ
ここ数年、世界の消費者は「長生きする」ことよりも「健康な期間を長く維持する」ことを重視するようになった。この意識変化は個々のライフスタイルだけでなく、企業の製品戦略やサービス開発にも直接影響を及ぼしている。
予防医療製品、パーソナライズド健康サービス、スマートヘルスソリューションなどの需要が急増している。これらは今やブランド競争の新たな差別化ポイントとなっている。
このトレンドは、高齢化、パンデミックの影響、健康教育の普及、技術革新の4つの要因によって加速している。調査では、52%の消費者が「今後5年間で自身の健康状態が改善する」と楽観視している。そのため企業は単に「製品」を提供するだけでなく、「包括的な健康管理ソリューション」を提案することが求められている。
スマート健康デバイスとサプリ市場が同時拡大
「健康寿命」の概念が浸透する中、スマートデバイスや栄養補助食品の市場は急速に拡大している。特にミレニアル世代とZ世代の間で、健康データを追跡できるスマートデバイス・アプリの利用率が高い。
2024~2026年の間、ウェアラブルデバイスの世界小売売上は2桁成長が続く見込みだ。データに基づく健康モニタリングを通じ、ブランドは精密な健康管理と高い顧客ロイヤルティを両立させている。

画像:Euromonitor International
一方、ビタミン・サプリメント市場も急成長している。2025年には世界小売売上1399億ドルに達する見込みだ。実際、消費者の54%が「自分の健康目的に合ったサプリを理解している」と回答している。

画像:Euromonitor International
健康ニーズの細分化による新たな消費トレンド
「関節」「記憶」「肌」など、特定領域への健康関心がより細分化している。2024~2026年の間、脳・関節・視力に関する健康カテゴリが最も成長が速いと予測されている。
たとえば、バイエルとサムスン電子は2024年6月に協業を発表した。両社はウェアラブルデータを活用して更年期女性の睡眠障害を研究している。さらに、女性の健康寿命を支えるソリューションを共同開発している。
米国のサプリブランドRootineはDNAや血液検査に基づくパーソナライズドビタミンを提供している。

ユーザーのライフスタイルに応じた機能性ドリンクを展開している。これにより「単品販売」から「健康管理ソリューション」へと転換を進めている。
2. 消費トレンドはより「合理的」に ― 「価格」より「価値」へ
Passportのデータによると、2025年の世界インフレ率は4.2%に低下する見込みだ。しかし、新興国では依然として5.5%前後の高水準が続く。
2024年の調査では、72%の消費者が生活必需品の価格上昇を懸念している。また、57%が購入前に徹底的に比較検討している。一方で、衝動買いをする人は18%にとどまった。
つまり、消費者は「安さ」ではなく「長期的な価値」を重視するようになっている。この”戦略的消費”が主流化することで、企業は価格以外の差別化要素を強化する必要がある。品質、機能性、利便性、信頼性のバランスを取ることが求められている。
プレミアム商品と自社ブランドが牽引する消費トレンド
「合理的消費」の中でも、高品質・高付加価値商品は依然として堅調だ。消費者は「長く使える・価値のある商品」にお金をかける傾向が強い。同時に、ブランドの世界観やステータス性も重視している。
2020~2025年、美容・パーソナルケア領域ではプレミアム商品の成長率が大衆商品を上回った。また、欧州・南米のデニム市場でも高級モデルが標準品を凌駕した。

自社ブランド(プライベートブランド)の台頭も顕著だ。2022~2024年にかけて、乳製品カテゴリーで100億ドルの売上増を記録した。主食カテゴリーでは140億ドルの売上増となった。価格競争力と品質管理の両立が支持されている。
マーケティングは「顧客起点」の消費トレンドへ
53%の企業担当者が「新しい顧客層や利用シーンの開拓」を重視している。また、59%が「既存製品の最適化」を今後5年の成長戦略に掲げている。
ロイヤリティプログラムの重要性も高まっている。ミレニアル世代の60%が「有料でも価値がある」と回答した。Z世代でも半数が同意している。
体験型リワードや価値観共鳴型キャンペーンが重要になっている。これらは「合理的な消費」時代におけるブランド成長の鍵となっている。

画像:Euromonitor International
3. 「理性的なエコ消費」が主流の消費トレンドに
サステナブル製品が加速拡大
2022~2024年の2年間で大きな変化が起きた。25カ国・11業界におけるサステナブルラベル付き商品のオンラインSKU数は400万から500万へ増加した。「環境配慮型ブランド」の売上成長率は、非エコブランドを1.5%上回った。

画像:Euromonitor International
2024年時点で、オンライン新品のうち1,400ブランド以上がサステナブル属性を持つ。特に美容・パーソナルケア分野では製品の46%が「環境配慮」表示を採用している。その結果、年間売上1,200億ドル超を記録している。

画像:Euromonitor International
エコ消費は「理性」と「実用」のバランスへ
消費者は依然として環境配慮に関心を持っている。しかし、実際の購買判断では「品質・価格・利便性」を優先する傾向が強い。
2024年の調査では興味深い結果が出た。52%が「環境に優しいラベル」を好意的に評価している。一方で、実際にプレミアムを支払う意向があるのは15%にとどまった。
つまり、単なる「グリーン訴求」では購買につながらない。ブランドは「品質」「機能」「環境配慮」を総合的に設計する必要がある。そして、消費者に”買う理由”を明確に示すことが求められる。

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画像:アマゾン
4. 効率重視の消費トレンド ―「速く・正確に買いたい」
ブランドはListingとUXを最適化すべき
商品数が爆発的に増える中で、消費者は「探すコスト」を最小化したいと考えている。つまり、わかりやすいListing(商品ページ)とスムーズな購入体験が求められる。
2024年、世界54業界で2.3万の新ブランドがオンライン進出した。半数以上の業界関係者が「購入体験の効率化」が今後の課題と答えた。
例えば、ナチュラル・低刺激・無添加などのラベルを明確化することが重要だ。消費者が数秒で商品の特徴を理解できるように設計する必要がある。

ライブコマースが購買効率を向上
ライブ配信を活用した購買が世界的に拡大している。2025年には世界ライブコマース売上5821億ドルに達する見込みだ。42%の消費者が「ライブ配信のほうが製品特徴を理解しやすい」と回答している。
「シンプルで信頼できる」デザインが選ばれる
2024年、54%の消費者が「信頼できるブランドのみ購入」と回答した。また、67%が「生活を簡素化したい」と感じている。さらに、28%が「情報が整理された製品表示」を好むと回答した。
ブランドは「簡潔・透明・信頼」をキーワードにUXを再構築する必要がある。アマゾンのAIショッピングアシスタント「Rufus」が好例だ。また、子ども用品ブランドTen Littleの年齢別提案型サイトも参考になる。
5. 生成AIが変える消費トレンドへの期待と慎重な姿勢
ChatGPTなどの生成AIブームを経て、消費者のAI観は「熱狂」から「慎重」へ変化した。AIの精度・著作権・バイアスに対する懸念が高まっている。
2024年の調査では複雑な結果が出た。27%が「AIによる商品推薦は的確」と回答している。しかし一方で、過半数が情報の正確性に懸念を示した。

画像:Euromonitor International
特にベビーブーマー世代では、48%が「自動運転」などAI技術に不安を感じている。一方、ミレニアル世代は最も積極的にAIを活用する層となっている。
ブランドはAI活用において、透明性・安全性・説明責任を明確にする必要がある。そして、信頼に基づくカスタマー体験を構築することが求められる。
結論:消費トレンドを理解する者が市場を制す
消費者意識の変化、合理的消費、サステナビリティ、購買効率化、そして生成AI。これらの消費トレンドは、越境ECやブランド経営に大きな影響を与えている。
ブランドにとって重要なのは「変化を予測すること」ではない。むしろ「変化を活かすこと」が重要だ。データに基づく意思決定と柔軟な戦略を通じて、差別化と信頼を実現する必要がある。グローバル競争の中でこれらを同時に実現することが、2025年の成長を決める最大の鍵となるだろう。
まとめ:2025年世界の消費トレンド5大ポイント
• 健康寿命重視:予防医療・パーソナライズド健康サービスが急成長。ウェアラブルデバイスは2桁成長継続 • 合理的消費:72%が価格上昇を懸念。価値重視でプレミアム商品と自社ブランドが成長 • 理性的エコ消費:サステナブル商品SKU500万個突破。ただし実際の購買は品質・価格を優先 • 効率的な購買体験:2.3万の新ブランド参入。シンプルで信頼できるUXが差別化の鍵 • AI活用の二極化:ミレニアル世代は積極的、ベビーブーマーは慎重。透明性と信頼性が重要



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