広東の小工場から懐中電灯を売り続けて14年、投資ゼロから年商120億円へ
懐中電灯――一見「時代遅れ」の製品に思えるかもしれない。しかし范江(ファン・ジャン)はこの小さな製品を、年間売上120億7,000万円にまで育て上げた。そのうちの119億5,000万円は海外売上であり、比率にして99%。独自ECサイトやAmazonが大きな比重を占めている。
彼が立ち上げたブランドは Olight(傲雷)。アメリカでは熱心なファンが多く存在する。
ある時、Olightの社員が出張でアメリカを訪れた際、空港のセキュリティ検査でブランドロゴ入りのTシャツを着ていたところ、検査員が気づいて興奮気味に「Oh, Olight, I know it!」と声をかけてきた。
また、Olightのオフラインイベントでは「給料の70%を懐中電灯購入に使った」というユーザーや、一度に数百本を購入して自分用だけでなくクリスマスなどの贈り物として配るユーザーもいた。
では、なぜごくありふれた懐中電灯が、アメリカでここまで熱狂的に受け入れられているのだろうか?
1、多用途に進化した「懐中電灯」
Olightの製品は、単なる日常用の懐中電灯にとどまらない。戦術ライト、EDC(日常携帯)ライト、アウトドア用ヘッドランプ、キャンプ用ランタン、自転車ライトなど、多用途に広がっている。

例えば「戦術ライト」は軍事や警察シーンで用いられる装備で、60ルーメン以上の光量を誇り、暗闇で強烈な反射を生み出して対象を威嚇できる。
こうした高性能ライトは狩猟の場でも広く活用される。一部製品は銃に直接取り付けられ、暗闇でも素早く正確に照準を合わせられる。アメリカでは狩猟はスポーツであり、生活文化の一部でもある。2021年11月時点で狩猟免許保有者は約1,520万人。この層こそがOlightの基盤ユーザーのひとつだ。
2、投資に見放された小市場からの挑戦
懐中電灯市場は規模が小さく、長らく投資家からは敬遠されてきた。それでも范江はこの道に飛び込み、14年間資金繰りに耐え抜き、ようやく3,000万元の投資を獲得。その後積み上げを続け、最終的に年商100億円超えを実現した。
01 小さな商いに大きな可能性
中国から輸出される懐中電灯10本のうち、6~7本は浙江省寧波市の西店鎮で生産されている。ここには800以上の企業が集積し、年産値は80億元を超え、世界的な照明産業拠点となっている。
2000年、西店の50社はチャーター便で広州交易会に参加し、そこで初めて外貿注文を獲得。この出来事が内需中心だった町を「世界の懐中電灯基地」へと押し上げた。
しかし、Olightの物語はここではなく、広東で始まった。范江は地元のLED産業クラスターに根を下ろし、オリジナルの懐中電灯ブランドを築き上げた。
02 Amazon ― 鍵型ライトから戦術ライトまで
Olightは現在、Amazon米国市場で懐中電灯カテゴリのトップブランドの一角にある。
- 月間売上は約370万本、売上高は1,600万ドル超。
- 自社直営店「Olight Direct」が売上の97%以上を占め、チャネルを完全に掌握している。


便携ライトや戦術ライトの二本柱で展開し、ランキング上位を独占している。
03 独立EC ― 広告に頼らない集客力
Olightの独自サイトは半年で660万訪問を記録。
- 米国市場が最大で46%、次いでオーストラリア(12.9%)、ドイツ(7.9%)。
- 男性ユーザーが7割、25〜54歳が中心。
特にオーストラリアはアウトドア文化が強く、需要が高い市場として急成長している。
04 SNS ― 小さなTikTokショップが大きな成果
SNSはOlightの重要な流入経路であり、特にTikTokでは本店が1,000万ドル以上を売り上げる一方、他の小店は苦戦。

Facebookでは20万人超のコミュニティを運営し、100回以上のイベントを開催。ユーザーとの関係をブランド資産として積み上げている。
まとめ
Olightの成功は、
- ユーザー起点の製品改良
- Amazon依存からの脱却と独立EC強化
- SNSによるコミュニティ形成
- 狩猟・アウトドアといったライフスタイル市場への深耕
に支えられている。
結果として、単なる「懐中電灯メーカー」から、世界的なアウトドア・照明ブランドへと成長を遂げた。


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