モバイルバッテリーといえば、Ankerは業界の代表的ブランドとして広く認知されており、技術力とブランド力を武器に長年3Cアクセサリー分野のトップに君臨してきました。
しかし、Amazon米国サイトの「Portable Power Banks(携帯型モバイルバッテリー)」売上ランキングを開いてみると、興味深い現象が見られます。首位を維持しているのはAnkerではなく、ポータブル充電分野に特化した別ブランド――INIUなのです。

INIUの一部製品はAmazonで数万件のレビューを獲得し、平均4.7星前後を維持。長期にわたり売上上位にランクインしています。
これは単に「どちらが多く売れたか」ではなく、異なる2つの成長戦略を映し出しています。1つはAnkerに代表されるように、技術開発とブランド価値を重視した相対的に高価格帯の路線。もう1つはINIUに代表されるように、コストパフォーマンスと耐久性を前面に打ち出し、大衆市場のニーズを的確に捉える戦略です。

結果として、両者とも同じ市場で成功を収めています。つまり、巨大な消費電子市場では、ユーザーのニーズは単一ではなく、多層的かつ多価格帯で共存しているということです。AnkerとINIUの違いを理解することで、ブランドごとの生存ロジックが見えるだけでなく、越境ECの競争構造の多様性も浮き彫りになります。
Amazonモバイルバッテリー分野の「売上王者」
INIUブランドの起源と戦略
INIUは2016年に設立されたブランドで、名前は「I Need You」に由来し、「常にそばにいる頼れるパートナー」という意味が込められています。
多角的に事業を展開するAnkerとは異なり、INIUは当初からモバイルバッテリー分野に集中し、「低価格だが信頼性に欠ける製品」と「高価格でプレミアム感がある製品」の間でバランスを取る戦略を模索しました。
大衆の注目を集めたのは2018年前後。2017年12月9日、INIUはAmazonで10,000mAhの超薄型モバイルバッテリーを発売。軽量設計、競合より低い価格、さらに珍しい3年保証を武器に、コスパを重視するユーザーを瞬く間に取り込み、Amazonの「定番商品」となりました。
驚異的な販売実績
2025年7月時点でも同製品はAmazon米国サイト「Portable Power Banks」カテゴリーで売上1位を維持し、レビュー数は8万件以上、評価は4.6星を記録。INIUの代表的なヒット商品となっています。
2023年前半、この製品の月間販売数は2〜3万台前後で推移していましたが、2023年末以降急上昇し、2024年末には月間15万台を突破。2025年には販売数が安定し、8〜9万台のレンジで推移、月間売上は135万〜165万ドル規模に達しました。つまり、INIUは急成長期を脱し、安定期に入ったといえます。

製品ラインナップの拡充
初のヒット商品後、INIUはすぐに全面展開するのではなく、「爆品集中戦略」を継続。2020年以降、20,000mAhや27,000mAhの大容量モデル、45W・65W急速充電対応モデルを投入し、ノートPCユーザーなど幅広いニーズをカバーしました。
また、デジタル残量表示やマグネット式ワイヤレス充電など外観・機能の工夫も取り入れ、「安価で耐久性あり」だけでなく、デザイン性や使用感も改善しました。
プロモーションとチャネル戦略
差別化ポイントの訴求
プロモーションでは、差別化ポイントを前面に打ち出しています。Amazonブランドページには「Amazon’s No.1 Best Seller Portable Charging Brand」と明記(期間:2023年10月〜2024年11月)、分野内での売上首位を強調。さらに「3年保証」をキャッチコピー「Any quality issues in 3 years? A new one on us.」で表現し、信頼性と購入安心感をアピールしています。
マルチチャネル展開
チャネル戦略では、Amazonを主軸としながらもBestBuy、Walmart、eBayなどに展開。独自サイト iniushop.com も運営し、流量獲得と顧客基盤の強化に努めています。

画像:iniushop.com
Walmartでは、17.99ドルの10,000mAh薄型モバイルバッテリーがベストセラーとなり、15W急速充電対応+翌日配送を武器に強い存在感を示しました。同時に、7.99ドル〜の100Wケーブルやワイヤレス充電器など低価格アクセサリーも展開。これにより、コア商品(バッテリー)の牽引力と周辺商品の客単価・リピート率を両立させています。
独自サイトは月間20万PV、うち78%以上が自然流入。自然検索が45.22%、直接アクセスが33.05%と、一定のブランド認知を確立。広告依存から脱却しつつあります。つまり独自サイトは販売チャネルだけでなく、ブランドの象徴・顧客コミュニティの拠点になりつつあるのです。
2つの異なる成長ロジック
Ankerの多角化戦略
INIUの成長を「ニッチ切り込み+チャネル浸透」とするなら、Ankerはまったく異なる成長戦略を展開しています。
Ankerは2011年創業以来、技術開発とブランド資産の積み上げを重視。事業領域も充電器にとどまらず、オーディオ(Soundcore)、ポータブルプロジェクター(Nebula)、スマートホーム(Eufy)など幅広く展開し、消費電子のエコシステムを形成しました。
製品戦略では、モバイルバッテリー・充電器を基盤にしつつ、高出力GaN充電器、多ポート急速充電、大容量モデルなど中高価格帯を強化。
市場ポジショニングの違い
SoundcoreはJBLやSonyと競合し、Nebulaは家庭&モバイル市場をターゲット、Eufyはロボット掃除機・スマートドアベル・監視カメラといったスマート家電をカバー。結果として、客単価とユーザー粘着度が単一アクセサリーよりはるかに高い構造になっています。
販売チャネルも、Amazonを起点としつつApple Store、BestBuy、Targetなどに広く展開。独自サイトは価格訴求よりも技術・ブランドストーリーの発信に重点を置いています。
対してINIUは、ブランドや多角展開ではなく「充電不安」という単一課題に集中。低価格急速充電+3年保証+セット販売という徹底したコスパ戦略で大衆市場を開拓しました。この「爆品モデル」はシンプルですが、需要が膨大な充電市場では非常に効率的でした。
市場での共存と示唆
結果、Amazon米国の「Power Banks」ランキングでINIU製品が常に上位を占め、Ankerが必ずしもトップではないという状況が続いています。
両者はそれぞれ異なる成長路線――「スケールと爆品戦略」vs「技術革新とブランド資産」で成功しているのです。
業界全体から見ると、これは「どちらが優れているか」ではなく、多様化する消費電子市場を象徴しています。ユーザーには性能・ブランドを重視する層もいれば、価格・信頼性を重視する層もいる。だからこそ異なるポジションのブランドが共存できるのです。
越境ECの観点では、INIUとAnkerの対比は1つの鏡のようです。両者ともAmazon発ですが、1つは単一分野で徹底、もう1つは多角展開で壁を築く。
つまり、海外進出に「唯一の正解」はなく、重要なのはユーザー需要を正しく読み取り、自社の資源と合わせて最適な成長路線を描けるかどうかだと示しているのです。
まとめ
- INIUが月商165万ドル達成 – Amazon米国「Portable Power Banks」カテゴリーで売上1位を長期維持
- 3年保証が差別化要因 – 「Any quality issues in 3 years? A new one on us.」で信頼性訴求
- 爆品集中戦略が奏功 – 10,000mAhモデルで月間8〜9万台、レビュー8万件以上獲得
- Ankerとは異なる成長路線 – INIUは単一分野特化、Ankerは多角化エコシステム構築
- マルチチャネル展開で成功 – Amazon主軸にWalmart、BestBuy展開、独自サイト月間20万PV
- 市場の多様性を証明 – 価格重視層と品質重視層が共存、両ブランドが成功
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